親の介護をする場合、どんな支援制度があるのでしょう。
休職、転職、退職など、親の状態によっては自分の生活にも大きく響きます。
もしそうなった時、生活を維持する手段はあるのでしょうか。
今回は親の介護による自分の生活への影響や負担、予測して準備しておく必要のある事柄などを考えてみたいと思います。
親の介護が必要になったとき仕事は
親が高齢になってくると、誰もが頭を過ることは将来の介護ではないでしょうか。
もし普段から介護が必要になった時のことを話し合っていて、親自身の蓄えが十分だとしても、人の手を借りなければならないのが介護です。
子が何もしないというわけにはいきませんよね。
親子間で具体的に話題にしたことがなければ、その時が急に訪れた時、慌てることになってしまいます。
なかなか気づきにくいことですが、高齢になるほど、何気ない日常生活にも含まれるリスクは高くなるものです。
そんな時、親の心配の次に考えることは自分の生活ではないでしょうか。
自分が介護をするのなら、時間に制約が生じ、親の要介護度が高くなるほど仕事との両立は難しくなっていきますね。
ケアマネージャーに相談して介護プランを立てても、特に在宅介護(居宅介護)では、サービスの利用だけでは介護が成り立たないケースもあるでしょう。
育児・介護休業法では「仕事と介護の両立支援制度」というものが定められています。
将来の不安を少しでも取り除くために、どのような支援制度があるのか、しっかりと知識を備えておきましょう。
親の介護で休職したりする場合の支援制度
親の介護が必要になった際には、まずはちゃんと職場に報告しましょう。
支援制度を活用するためでもありますが、急な都合で出勤できなくなる可能性も考えれば、上司や同僚にカバーしてもらう必要性もありますからね。
それではどんな支援制度があるのか、具体的に取り上げていきます。
介護を行う労働者が利用できる制度・公的給付
育児・介護休業法によって定められた仕事と介護の両立を支援する制度です。
介護休業
申し出ることにより、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として介護休業を取得することができます。
介護休暇
要介護状態にある対象家族が 1人であれば 年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、1日単位または半日単位で取得できます。
所定労働時間の短縮等の措置
- 短時間勤務制度(短日勤務、隔日勤務なども含む)
- フレックスタイ ム制度
- 時差出勤制度
- 介護サービスの費用助成
介護休業とは別に、要介護状態にある対象家族1人につき、利用開始から3年間で2回以上の利用が可能です。
所定外労働の制限
1回の請求につき1月以上1年以内の期間で、所定外労働の制限を請求することができます。
請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要な時に利用することが可能です。
時間外労働の制限
1回の請求につき1月以上1年以内の期間で、1ヵ月24時間、1年に150時間を 超える時間外労働の制限を請求することができます。
請求できる回数に制限はなく、 介護終了までの必要な時に利用することが可能です。
深夜業の制限
1回の請求につき1月以上6月以内の期間で、深夜業(午後10時から午前5時までの労働)の制限を請求することができます。
請求できる回数に制限はなく、介護終了 までの必要な時に利用することが可能です。
転勤に対する配慮
事業主は、就業場所の変更によって介護が困難になる労働者がいる時は、その労働者の介護の状況に配慮しなければなりません。
不利益取扱いの禁止
事業主は、介護休業などの制度の申出や取得を理由として、解雇などの不利益取扱いをしてはなりません。
介護休業等に関するハラスメント防止措置
事業主は、介護休業などの制度の申出や利用に関する言動により、労働者の就業環境が害されることがないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。
介護休業給付金
雇用保険の被保険者が、要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した場合、一定の要件を満たせば、原則として介護休業開始前賃金の67%が支給されます。
以上が育児・介護休業法で定められている制度です。
勤務年数が1年未満の人などは利用できない場合がありますが、パートタイム労働者・アルバイト・契約社員・派遣社員など、すべての労働者が対象となります。
企業によっては、更に上回る制度を整備している場合もありますので、自分の職場が導入している制度を確認しておいた方がいいでしょう。
介護保険制度で利用できる介護サービス
介護保険法が定める制度により、利用できる介護保険サービスです。
●自宅で受けるサービス
- 訪問介護(ホームヘルプサービス)
- 訪問入浴介護
- 訪問リハビリテーション
- 訪問看護
- 居宅療養管理指導
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
●施設などに出かけて受けるサービス
- 通所介護(デイサービス)
- 通所リハビリテーション(デイケア)
- 短期入所生活介護(福祉系ショートステイ)
- 短期入所療養介護(医療系ショートステイ)
- 小規模多機能型居宅介護
- 看護小規模多様機能型居宅介護
●施設などで生活しながら受けるサービス
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 認知症対応型共同生活介護(認知症高齢者グループホーム)
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
●生活環境を整えるためのサービス
- 福祉用具貸与
- 福祉用具購入費の支給
- 住宅改修費の支給等
以上が介護保険制度で利用できる介護サービスです。
中には要介護度の違いによって受けられないサービスもありますので、事前の確認が必要となります。
介護保険サービスを利用するまでの流れ
申請
サービスの利用する時は、市区町村の介護保険課担当窓口で申請を行います。
地域包括支援センターや、居宅介護支援事業所などに申請を代行してもらうこともできます。
地域包括支援センターは、地域によって名 称が異なる場合がありますので、分からない 場合は自治体に問い合わせてみましょう。
要介護認定
訪問調査と主治医の意見書をもとに、審査・判定が行われ、要介護・要支援度が決定します。
要支援1または2、要介護1~5の7段階に分かれており、段階によって利用できるサービスや月々の利用限度額が異なります。
調査には家族が立ち会い、本人の状況や困り事をきちんと伝えることが大事ですね。
調査にかかる時間は通常1時間半程度です。
ケアプラン作成
本人の意向や家族の意向、専門職の助言を踏まえ、どのようなサービスをどのくらい利用するかなどを決めるケアプランを作成します。
ケアプランの作成は、いずれも無料です。
介護者が就労している場合は日頃の働き 方やどのように介護に携わりたいかなど、 両立のための希望をケアマネジャーに伝え ましょう。
サービスの利用
介護保険サービスを提供する事業者と契約を 結び、サービスを利用します。利用にあたっては、費用の1割 または2割や居住費・食費などが自己負担となります。
事業所・施設は、利用する本人や家族が あらかじめ見学をして決められるとスムー ズでしょう。また、サービスの契約の際は、 必ず家族が立ち会いましょう。
以上が介護保険サービス利用までの流れですが、要介護度の判定には1ヵ月ほどかかります。
決定した要介護度は申請日にさかのぼっ て有効となりますので、サービスの利用を急ぎたい場合は、調査後、暫定的にサー ビスを利用することもできますよ。
とにかく介護が必要かもしれないと感じたら、 早めに市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談することです。
尚、地域包括支援センターの名称は居住する地域によって名称が異なる場合がありますので、こちらも事前の確認をお勧めします。
また、休職は法律で定められた制度ではありません。
就業規則に休職制度を設けている企業でも、休職の満期終了時に復職できなければ、自動的に退職という扱いになります。
会社の社会保険料の負担、同僚たちへの仕事の負担を思えば仕方のないことですが、介護する側にとっては酷な状況ですね。
出典:厚生労働省 平成29年度版「仕事と介護 両立のポイント あなたが介護離職しないために」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/29_gaiyoban_all.pdf
親の介護度によっては退職もある
自分の状態に変化を感じても、自尊心や子への遠慮などもあり、そのことを自ら言い出せない親は多いものです。
そういった理由からも、普段から親の様子を見守ることは大切ですが、不安がある場合は職場だけでなく、民生委員や近所の人に話しておくことも必要ですよ。
特に働いている間などに親が一人になる家庭では、どうしても心配になってしまいますよね。
あらかじめ、急なことが起きた時に連絡してもらうようにしておいた方がいいですし、将来、必要になる介護の形次第では、民生委員の協力も不可欠となってきます。
実際に介護が必要になったら介護休暇・介護休業を利用し、親の状態に合った介護プランをしっかりとケアマネージャーと話し合いましょう。
親の状態は一定ではないでしょうし、人の数ほど適した介護というものも様々です。
その度に介護プランの変更を余儀なくされることになるでしょう。
前述の制度やサービスを上手に組み合わせ、仕事と介護を両立させることがもっとも望ましい形です。
しかしながら、どれくらいの期間を要するかもわからないのが介護ですね。
現実的に介護休業では足りず、やむなく退職を選択する状況になってしまうことも少なくありません。
実際に介護をしている労働者で、介護休業等の制度を利用したことがない人の割合は約9割という数字が出ています。
これは驚くというより、嘆かわしい数字とも言えるのではないでしょうか。
理由としては「仕事を代わってくれる人がいない」「収入が減る」等が多数を占めていますが、「利用方法がわからない」といった制度の周知不足も原因となっています。
この先、ますます高齢化は進み、要介護者の人数も増えていくことでしょう。
介護離職者ゼロの実現など遥か遠い世界に感じてしまいますね。
法改正による制度や支援の整備は徐々に進んでいますが、介護離職率は現在も増え続け、大きな社会問題となっています。
出典:厚生労働省 平成29年度版「仕事と介護 両立のポイント あなたが介護離職しないために」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/29_gaiyoban_all.pdf
出典:総務省 介護離職に関する意識等調査(各種分析結果・家族介護者からの意見等)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000557688.pdf
親の介護をしながら、自分の生活を守る
もし仕事を辞めてしまった場合、親の介護をしながら自分の生活を維持する手段はあるのでしょうか。
これは仕事の有無に関わらず、介護をする上で大切なことですが、自分の生活を守るために必要なことは「一人でやろうとしない」「深刻に考え過ぎない」の2点です。
配偶者や子ども、兄弟姉妹がいる場合は、遠慮せずに協力を仰ぎましょう。
退職しても、もちろん介護保険サービスの利用は可能です。
また親に徘徊等の症状がみられる場合は、近所の人々に世話になることも考えられますね。
家族だけでなく、日頃からコミュニケーションをとって良好な関係を築いておくことが肝心ですよ。
費用面では要介護者、つまり親の年金や貯蓄でまかなうことがベストです。
「高額介護サービス費制度」や「高額療養費制度」という制度もありますよ。
介護保険サービスや医療サービスの自己負担額が一定額を超え、高額となった場合に利用できますが、申請しなければ受けることはできません。
必要に応じ、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談するようにしましょう。
そして介護者にも休養が必要です。
家族に任せられない場合は、ショートステイなどを積極的に利用しましょう。
自分だけの、自分のための時間を確保することによって、介護者も健やかな精神状態を保つことができるはずです。
親を短期間でも施設に預けることに罪悪感を抱くかもしれませんが、本心から子の健康維持を望まない親はいないでしょう。
初めは親も寂しがるかもしれませんが、慣れてくると意外と気に入ったりするものですよ。
自分の好きなことは我慢せずに、そういった時間や普段の隙間時間を上手に利用して、大いに楽しみましょう。
次に自分の生活の経済面です。
現状では離職した人への給付等はありませんので、職業安定所で失業手当の申請を行いましょう。
出費を抑えるため、市町村の窓口で社会保険料等の免除などの相談もしておくべきですね。
本格的に仕事ができるのがいつになるのかわからない状態ですので、在宅でできる仕事に挑戦してみるという手段もあります。
退職前の収入には遥かに及ばないかもしれませんが、介護に没頭する日々に新たな張り合いを与えてくれるのではないでしょうか。
ネット上でも構いませんので、相談できたり愚痴を言えたりする場所を見つけて、ストレスを貯めないことが大事です。
自分と同じような境遇の人たちはたくさんいますよ。
人生のヒントを得られるかもしれませんし、自分に合った仕事を見つけるヒントも得られるかもしれません。
たくましく貪欲なって、利用できるものは何でも利用しましょう。
出典:厚生労働省 平成29年度版「仕事と介護 両立のポイント あなたが介護離職しないために」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/29_gaiyoban_all.pdf
親の介護で休職や転職や退職 まとめ
今回は休職、転職、退職など、親の介護による自分の生活への影響と負担、それらを予測しての準備について話を進めてきました。
休職は法に定めはなく職場によって異なること、介護休業などの制度を利用している人は少なく、制度自体を知らない人もいるということがわかりましたね。
仕事との両立も徐々に難しくなり、介護離職後の転職にも様々な問題があります。
でも利用できる制度の知識を備え、早めの行動、積極的な行動を心がけることによって、自分の生活への影響や負担を減らすこともできるはずです。
介護は自分や家族だけの問題ではなく、地域全体が共有し、一丸となって取り組むべき課題です。
頼れる人や制度にはしっかりと頼り、自分たちの生活を守っていきましょうね。
同じ悩みや苦しみを抱える人はたくさんいます。
一人で抱え込む必要はありませんよ。
親のためにも自分のためにも、最善の道を選んで人生を歩んでいきましょう。
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